Excelが「ディミニッシュ」と「オーギュメント」を見抜く瞬間 ”dim”と”aug”のロジックを解明
山本式和音番号の構築プロジェクトは、いよいよ和音の「響きの個性」を決定づける、重要な数式の実装へと進みます。
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前回の記事では、「M(メジャー)」と「m(マイナー)」という、和音の基本的な性質を判定する精緻なロジックを解き明かしました。
和音変換システムの表現力をさらに拡張する
“dim”と”aug”:コードネームの重要な要素
さて、今回は DB_山本式和音 シートの T列に “dim” (ディミニッシュ)、そして U列に “aug” (オーギュメント)の記号を表示させるための論理体系を構築します。
“dim” (減和音)や “aug” (増和音)は、 Bdim や Caug のように、和音の響きに独特な緊張感や浮遊感を与え、音楽に彩りを加える重要な記号です。

これらの記号をExcelに正確に表示させることで、和音変換システムの表現力は、プロフェッショナルなレベルへとさらに向上します。
今回のテーマは、一見すると特殊に見えるこれらの和音の性質を、いかにしてシンプルかつ網羅的な条件分岐で表現するか、その論理の構築プロセスを解明することです。

STEP1:”dim”を表示させるロジックを解剖する!
まずは、ディミニッシュ(減和音)の性質を持つ和音を特定するための、T列の数式から解説します。
この数式には、「ディミニッシュ」という和音が生まれる、3つの異なる音楽的背景がロジックとして組み込まれています。
なお、AND関数やOR関数の基本的な使い方については、第9回の記事で詳しく解説していますので、そちらも併せてご参照ください。
減三和音、減七の和音を見抜く条件とは?
T列(dimフラグ)に記述する数式全体
DB_山本式和音シートのT2セルに、以下の数式を入力します。
=IF(OR(AND(F2=2,G2=“”,J2<>“”),AND(F2=5,G2=9,H2>=1,I2=8,J2<>“”),AND(F2=5,G2=7,H2>=1,I2=8)),“dim“,“”)

OR関数の外枠:三つの主要条件グループ
この数式の論理式部分は、OR関数の中に、三つの異なるAND関数グループが組み込まれた構造になっています。
これは、”dim“が表示される条件が、大きく分けて3つの異なるパターンに分類できることを意味します。
この3つのうち、いずれか一つでも条件を満たせば、”dim“が表示される、という仕組みです。
それでは、各条件グループを詳細に見ていきましょう。
条件グループ1:AND(F2=2,G2=””,J2<>””)
最初のANDグループは、「借用和音としてのII度の減三和音」を特定するための条件式です。
- F2=2: [度]列が2(II度)であること。
- G2=””: [7/9]列が空白であること。つまり、7thや9thのテンションを持たない「三和音」であることを示します。
- J2<>””: [借用]列が空白ではないこと。つまり、借用和音フラグ0が入力されていることを示します。

【ロジック解説】
長調において、II度の三和音は通常マイナーコードです(例: C durのDm)。
しかし、山本式和音番号の哲学に基づき、同主短調から和音を借用する場合、その性質は変化します。
C durの文脈でc mollからII度を借用すると、その和音はDdim(D F A♭)、すなわち「減三和音」となります。このルールを、この条件式が正確に捉えているのです。
条件グループ2:AND(F2=5,G2=9,H2>=1,I2=8,J2<>””)
2番目のANDグループは、より複雑な、「根音省略されたV9の借用和音(減七の和音)」を特定します。
- F2=5: [度]列が5(V度)であること。
- G2=9: [7/9]列が9(9th)であること。
- H2>=1: [転]列が1以上、つまり転回形であること。
- I2=8: [根省]列が8であり、根音省略が行われていること。
J2<>””: [借用]列が空白ではない、つまり借用和音であること。
【ロジック解説】
これは、第8回記事でも触れた559180の例で登場したF#dim7のような和音を特定するための条件です。
V度の9thコード(例: C durのG9)が、借用和音として質的変化を起こし、さらに根音が省略され転回することで、結果的に「減七の和音(ディミニッシュセブンス)」が形成される、という非常に高度なケースです。
この条件式が、その複雑なプロセスを経た和音に”dim“の記号を与えます。

条件グループ3:AND(F2=5,G2=7,H2>=1,I2=8)
最後のANDグループは、「根音省略された属7和音(V7)から生まれる減三和音」を特定します。
- F2=5: [度]列が5(V度)であること。
- G2=7: [7/9]列が7(7th)であること。
- H2>=1: [転]列が1以上、つまり転回形であること。
- I2=8: [根省]列が8であり、根音省略が行われていること。
【ロジック解説】
お気づきでしょうか。この条件グループには、J2(借用和音)に関する判定が意図的に省略されています。
なぜなら、「属7和音(ドミナントセブンス)」には、借用和音の概念が存在しないからです。
この条件は、純粋な属7和音(例: C durのG7)の根音を省略し、転回させた場合に生まれる和音を対象としています。
例えば、G7の根音Gを省略した第1転回形は、構成音がH D Fとなり、これはBdim(Bディミニッシュ)として解釈されます。
この、属7和音に元々内包されている減三和音の性質を、この条件式が的確に捉えているのです。

STEP2:”aug”を表示させるロジックを解剖する!
“dim“の複雑なロジックとは対照的に、”aug“(オーギュメント)のロジックは驚くほどシンプルです。
この対比からも、システムの設計思想が見えてきます。
増三和音を見抜くシンプルな条件とは?
U列(augフラグ)に記述する数式全体
DB_山本式和音シートのU2セルに、以下の数式を入力します。
=IF(AND(G2=””,K2=”+”),”aug“,””)
この数式は、AND関数でたった二つの条件を組み合わせるだけで、増三和音(オーギュメントトライアド)を正確に判定します。
- G2=””: [7/9]列が空白であること。これは、対象が7thや9thのテンションを持たない「三和音」であることを意味します。
- K2=”+”: [+]列に、上方変位を示す+の記号が入力されていること。
【ロジック解説】
山本式和音番号において、増三和音は「三和音」であり、かつ必ず”+”の記号を伴います。この数式は、その定義をそのまま条件式にした、極めて直接的で効率的なロジックなのです。

まとめ:”dim”と”aug” その論理を理解する
今回の記事では、”dim“と”aug“という、和音の響きに独特な個性を与える重要な記号を、Excelでいかに正確に表現できるか、その論理体系を学びました。
特に、”dim“を導き出すための3つの異なる音楽的背景と、それがどのようにANDとORの組み合わせで表現されるか、その精緻な設計思想をご理解いただけたかと思います。
また、属7和音の扱いに見られるような、音楽理論の厳密なルールが、数式から特定の条件(J2の判定)を省略させるという判断に繋がっている点も、重要なポイントでした。
一見すると複雑な数式も、一つ一つの要素を丁寧に分解していけば、その背後にある論理と、山本式和音番号の哲学が見えてきます。
この数式を理解したことで、あなたはExcelで音楽の構造を表現する力を、さらに大きく高めたはずです。
さて、これでコードネームを構成する主要な記号(M, m, dim, aug)を判定するロジックが、ほぼ出揃いました。
次回の記事では、いよいよ、これらのフラグと、これまでに導出した各種要素を統合し、最終的なコードネームを文字列として完成させる、TEXTJOIN関数などを用いた文字列操作のステップへと進みます。
お楽しみに!