Excelが「7th」と「9th」を見抜く瞬間 和音のテンションを正確に判定
山本式和音番号の論理エンジン構築も、いよいよ佳境に差し掛かってきました。
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前回の記事では、「dim(ディミニッシュ)」と「aug(オーギュメント)」という、和音の基本的な性質を決定づける、極めて重要な記号の表示ロジックを解き明かしました。
和音変換システムの表現力をさらに拡張する
“7th”と”9th”:コードネームの重要な要素
さて、今回はDB_山本式和音シートのV列に”7″(セブンス)、そしてW列に”9″(ナインス)の数字を表示させるための、2つの連携する数式に焦点を当てます。
“7“と”9“は、CM7やG9のように、和音に深みや複雑さ、そして特有の色彩を与える「テンション」と呼ばれる要素です。

これらの数字をExcelに正確に表示させることで、和音変換システムの表現力と精度は、プロフェッショナルなレベルへと飛躍的に向上します。
今回のテーマは、これら「テンション」という和音の性質を、いかに論理的に判定し、Excelに表示させるか、その精緻な仕組みを解説することです。

STEP1:”7th”を表示させるロジックを解剖する!
まずは、7th(セブンス)の性質を持つ和音を特定するための、V列の数式から解説します。
この数式には、「7th」という響きが生まれる、4つの異なる音楽的背景が、条件分岐のロジックとして見事に組み込まれています。
なお、AND関数やOR関数の基本的な使い方については、第9回の記事で詳しく解説していますので、そちらも併せてご参照ください。
7th和音の多様な発生源を見抜く条件とは?
V列(7thフラグ)に記述する数式全体
DB_山本式和音シートのV2セルに、以下の数式を入力します。
=IF(OR(AND(G2=7,I2=“”),AND(G2=9,H2>=1,I2=8,J2=“”),AND(F2=5,G2=9,I2=“”,J2<>“”),AND(F2=5,G2=9,H2>=1,I2=8,J2<>“”)),7,“”)

OR関数の外枠:四つの主要条件グループ
この数式の論理式部分は、OR関数の中に、4つの異なるAND関数グループが組み込まれた構造になっています。
これは、”7“が表示される条件が、大きく分けて4つの異なるパターンに分類できることを意味します。
この4つのうち、いずれか一つでも条件を満たせば、“7”が表示される、という仕組みです。
条件グループ1:AND(G2=7,I2=””)
最初のANDグループは、「根音省略のない、基本的な7th和音」を特定するための、最も標準的な条件です。
- G2=7: [7/9]列が7であること。これが、その和音が「7th和音」であることの直接的な指定です。
- I2=””: [根省]列が空白であること。根音省略(8)が行われていない、純粋な7th和音(例: CM7, Dm7, G7など)を対象とします。

条件グループ2:AND(G2=9,H2>=1,I2=8,J2=””)
2番目のANDグループは、「根音省略された9th和音」が、結果的に7th和音として解釈される特殊なケースを捉えます。
- G2=9: [7/9]列が9であること(元は9th和音)。
- H2>=1: [転]列が1以上であること(転回形である)。
- I2=8: [根省]列が8であること(根音省略されている)。
- J2=””: [借用]列が空白であること(借用和音ではない)。
【ロジック解説】
これは、例えばC durにおけるG9の根音省略・第1転回形が、構成音H D F Aとなり、Bm7(♭5)と解釈されるルールを反映したものです。
結果として生まれる和音は、コードネーム上”m7(♭5)“のように”7“が付与されるため、この条件で”7“を表示させる必要があるのです。

条件グループ3:AND(F2=5,G2=9,I2=””,J2<>””)
3番目のANDグループは、「借用和音として扱われるV度9の和音」が、7thコードとして表記されるケースを特定します。
- F2=5: [度]列が5(V度)であること。
- G2=9: [7/9]列が9であること。
- I2=””: [根省]列が空白であること。
- J2<>””: [借用]列が空白ではないこと(借用和音である)。
【ロジック解説】
これは、山本式和音番号590(V度9の借用和音)が、最終的にG7(♭9)のような7thを含む和音として解釈される、というシステムの哲学を反映しています。
元の指定は9であっても、借用和音となることで和音の性質が変化し、表記上は”7“が主体となるケースを、この条件式が的確に捉えています。

条件グループ4:AND(F2=5,G2=9,H2>=1,I2=8,J2<>””)
最後のANDグループは、「根音省略された、V度9の借用和音」という、最も複雑なケースです。
- F2=5: [度]列が5(V度)であること。
- G2=9: [7/9]列が9であること。
- H2>=1: [転]列が1以上であること。
- I2=8: [根省]列が8であること。
- J2<>””: [借用]列が空白ではないこと。
【ロジック解説】
これは、559180がF#dim7となるようなケースを代表とする、減七の和音(ディミニッシュセブンス)が生まれるパターンです。
結果として”dim7“という表記になるため、”7“を表示させる必要があります。
この条件が、その複雑な変換プロセスを経た和音を正確に特定します。

STEP2:”9th”を表示させるロジックを解剖する!
“7“の複雑なロジックとは対照的に、”9“のロジックは、その「連携」の思想を理解することが鍵となります。
9thテンションを見抜くための、他の列との連携
W列(9thフラグ)に記述する数式全体
DB_山本式和音シートのW2セルに、以下の数式を入力します。
=IF(AND(G2=9,I2=“”,V2=“”),9,“”)

AND関数の条件の詳細
この数式は、AND関数で3つの条件を組み合わせています。
- G2=9: [7/9]列が9であること。これが「9th和音」であるための大前提です。
- I2=””: [根省]列が空白であること(根音省略なし)。根音省略が行われると、和音の性質が7thコードに再解釈されるため、純粋な9thコードからは除外します。
- V2=””: V列(7thフラグ)が空白であること。 これが、この数式の最も巧妙な部分です。
【ロジック解説】
なぜV列が空白でなければならないのでしょうか?
それは、590(V度9の借用和音)のようなケースに対応するためです。
この和音は、G2=9を満たしますが、STEP1の条件グループ3のロジックにより、V列には”7“が表示されます。

もしこのV2=””という条件がなければ、590はV列に”7″、W列に”9″の両方が表示されてしまい、G79のような意図しない表記になってしまいます。
V2=””という条件を加えることで、「V列で7thと判定された和音は、9thとは判定しない」という、数式間の明確な優先順位と連携が生まれ、G7(♭9)とG9を正確に書き分けることが可能になるのです。
“7th”と”9th” その論理を理解する
今回の記事では、”7“と”9“という、和音のテンションを表す重要な数字を、Excelでいかに正確に表現できるか、その論理体系を解き明かしました。
“7“を判定するための4つの異なる音楽的背景の網羅、そして”9“を判定するためのV列との精緻な連携。
これらのロジックを通じて、山本式和音番号の設計思想が、いかに深く数式に反映されているかをご理解いただけたかと思います。
さて、これでコードネームを構成する主要な記号(M, m, dim, aug, 7, 9)を判定するロジックが、全て出揃いました。
次回の記事では、sus4やG7(♭9)の括弧の部分を表示させるステップへと進みます。
お楽しみに!